妖精の涙【完】
「言うまで出ねえぞ」
「そんな…!」
「出させねえし」
なんて強引な、と押し出そうとしたがびくともしなかった。
「もう我慢する必要ねえだろ。おまえに欲がないのは知ってる」
すごい曖昧な表現だけど、この人が自分の過去を知っているのは明らかだ。
本当にこの人はどこまで知っているんだろう。
履歴書以上のことを知っているのは間違いない。
胸の内にズカズカと土足で入って来るときがあり、正直ギーヴが苦手になっていた。
「知ってるのが何だって言うんですか…理解者のつもりですか」
「そんなこと思ったことはねえ。ただおまえには幸せになってほしいだけだ」
「私はもう十分に幸せです」
ここに来ることができて。
いろんな人に会って。
いろんなことを知って、できるようになって。
今までにない経験ができて。
もうお腹いっぱいなぐらいだ。
「言えよ。おまえの考えてること、全部」
「無理です、言えません…」
ダメだ、涙腺が緩んできた。
本当は言いたい。
でも言えない。
言ったら迷惑になるだけ。
邪魔になるだけだ。
言ったら楽になるだろうし、彼はたぶん否定しない。
でも言いたくなかった。
ふるふると首を横に振り続けた。
「頭の中がぐちゃぐちゃなんです…整理をさせてください」
「…わかったよ。怖い思いさせて悪かったな」
俯きながら落ちて来る涙を拭っていると、頭に大きな手のひらが置かれた。
「ただまあ…俺の好きにさせてもらうぜ」
そのまま優しく撫でられる。
「とりあえずはワンピース買って来てやるから待ってな」
そのままバタンと閉じられたドア。
……ワンピース…?
「ええ…」
気づかれていた。
気づかれてしまっていた。
なんてこった。
「はあああ…」
こうなるなら自分から言った方がマシだったかもしれない。
言い逃げされてしかも放置されるのは勘弁してほしかった。
「…干そう」
とりあえず濡れた衣服を乾かすことに専念した。