妖精の涙【完】
*
「だー!…くそっ」
焦った。
マジで焦った。
俺…何やってんだ。
「はあ…」
あいつの気持ちはあのワンピースでわかっていた。
でも俺は正直応援したくない。
確かにあの2人には幸せになってほしいと願っている。
が…不毛すぎる。
オルドは望まずとも妻を数人持つことになり、1人のみを愛することは許されない。
ティエナはきっと…我慢する。
今まで通り我慢する。
むしろ…自分から身を引くやつだ。
2人の幼い頃を知っているがゆえ、なおさら見過ごせない。
「せめてケイドだったら…」
いや、そう考えるのはやめよう。
あいつらに失礼だ。
自室のベッドに寝転がりながらまだ慣れない部屋の天井を眺める。
戻ってきたらこんなことになっていたとは思ってもいなかった。
俺はどうしたいんだ。
…どうしたらいいんだ。
オルドの気持ちはどうなんだ…?
まだそういう雰囲気ではなかったが、恐らく時間の問題だと思う。
オルドも大事にしたいものほど距離を取りたがるし。
俺は…
奪うのは性に合わない。
振り向かせたい。
彼女のガードはなんとかなる。
問題は妙に鈍感なところ。
「あー…やめだやめだ」
俺は自分の手のひらを見た。
本当は抱きしめたかった。
泣くのを我慢しきれず震えるその背中ごと。
消化しきれないその気持ちごと。
でも遠かった。
俺ではまだ届かなかったのだ。