妖精の涙【完】
精魂祭1日目
「うふふ、どうしてあなたはその恰好なのかしら」
「はい?」
「着替えさせてあげましょうか?」
老婆のようなしわがれた声をわざと出してリリアナが迫ってきた。
指の動きが蛇のようにうねうねと動いていた。
「じ、自分でできます…」
「なら今すぐ着替えていらっしゃい。まずはそこからよ」
「かしこまりました…」
実は着替えることに対して気乗りしていなかった。
結局闇色のワンピースは後日ギーヴから受け取り、彼は特に言われなかったためどう思っていたのかさっぱり読めなかった。
からかうなりしてくれた方がましだったんだけど。
あと手渡されたのがもう1つ。
真っ白なハンカチ。
「おまえ刺繍できるよな?これにリトルムーンの刺繍をしてくれねえか」
「…刺繍、ですか?」
「まあ、人に頼まれたんだが俺にはできねえし」
「いいですけど…?」
「じゃ、頼んだ。なんか説明のカードもあると助かる」
と、そそくさと彼は去り、言われた通りに刺繍をしてまた後日渡すと褒められた。
「上手いもんだな。これぐらいの腕があれば売れるんじゃないか?」
「売るんですか?」
「例えだ例え。そんな寂しそうな顔すんな」
「そんな顔してませんけど」
「してんだよ、自覚がないだけで」
彼に髪をぐりぐりとかき回されて髪の毛がぐちゃぐちゃになり前が見えなくなった。
顔に付いた毛を指で払っていると、彼も申し訳なさそうに手伝ってくれた。
「悪いな。静電気でこんなになるとは思ってなかった」
「悪ふざけも大概にしてください…」
「悪かったって」
お詫びにこれやるよ、と手のひらに渡されたのは飴だった。
「飴…?」
「刺繍で頭が疲れてんじゃねえかと思ってな。ま、助かったわ、ありがとな」
と、また頭に手が伸びてきて反射的に払いのけると彼は驚いたような顔をしたがすぐに作り笑いになった。
「ははっ、学習したな」
「私をなめないでください」
あのあとそのまま別れたが、一体誰に頼まれたのだろうか。
しかもわざわざリトルムーンなんて…
頼まれたと言っていたが、本当はお花ならなんでもよかったのかもしれない。
それか、自作自演か…
でも嘘をつく理由も見当たらないし…
と、あれやこれやとあのときのことを考えていたらいつの間にか着替えが済んでいた。
そして私が無意識に選んだワンピースは…
闇色だった。