妖精の涙【完】
そしてリリアナの部屋に戻ったもののやはり何も言われなくてむしろ不気味だった。
ギーヴといい、何かしらの反応があってもいいはずなのにここまで無視されるとかえって怪しい。
それとも自分が自意識過剰なだけなんだろうか。
…それはそれで恥ずかしかった。
「はい、これ」
何やらタンスの中を漁っているな、とは思っていたが、リリアナがいきなり何かを手渡してきた。
「この間買い物に行ったときに買っておいたものよ」
見ると、イエローコリンのブローチだった。
優しい色合いのガラスで作られた小ぶりのブローチで、それをリリアナが再び手に取りワインレッドのコートに付けてくれた。
主張が激しいわけでもなく浮いているわけでもないためしっくりとくるように感じた。
「よし、準備できたわね」
そしてリリアナが出て行こうとしたとき、ちょうどドアが外から開いて廊下が見えた。
「…何やってるのよ」
「悪くねえだろこういうのも」
2人で廊下に出るとギーヴがいて、ドアを開けてくれたようだった。
ティエナは驚いただけだったが、リリアナは不気味だったみたいで少し不機嫌になった。
「やるならやるって言ってちょうだい。勝手にあたしの気配読まないでよ」
「なんで不機嫌になってんだ?」
「鳥肌が立ったって言ってるの!」
「んなのわかんねえっての」
な?と同意を求められたが、あはは、と笑うことしかできなかった。
それから彼の視線がティエナの恰好に行き僅かにその目を見開いたがすぐに戻った。
「転ぶんじゃねえぞ?」
「大丈夫です」
…と、言われた矢先に、歩き始めてから間もなくして何もないところで転びそうになりギーヴに支えてもらうはめになった。
心臓がバクバクとして忙しなかった。
「だから言っただろ」
耳元で声がして思わず首をすくめた。
力強く腰に腕を回されて脇腹がむしろ痛い。
「そろそろ離しなさい。痛いはずよ」
「ああ、わりい。つい」
ゆっくりと腕から解放されて深呼吸をした。
同時にいろいろなことがあって心臓の動きがなかなか静かにならない。
そんな鼓動をおさめつつ城下に行くともう大勢の人でごった返していた。
「で、ノープランだぜ今日は」
「何言ってるの、イケルドに行くわよ」
「はあ?聞いてねえぞ」
「だって言ってないもの」
リリアナの提案というか命令に驚いて彼女を見たがその目は嬉しそうに輝いていた。
「だってずっと王城が見えるところまでしか行ったことないのよ?たまには遠出したいじゃない」
「日帰りってことでいいよな?」
「ええ、もちろん。馬車で2時間でしょ?往復4時間なら大したことないわね」