妖精の涙【完】
そう、同情じゃダメ。
結局は同じ痛みを知った者にしかわからないこともあるのだから。
「男に出産の痛みはわからないのよ」
「…すげえ例えぶっこんでくんな」
「あたしだってまだその痛みを知らないけど、いずれはわかること…でも、幼い頃に受けた傷っていうのはあたしたちが思っている以上に、いえ、本人が思っている以上にその人の人生に深く刻み込まれるものよ。あたしたちがこれから体験できるものじゃない」
過去には戻れない。
今体罰を受ければいくらでもやり返せるけど、もっと子供の頃というのは親や環境が全てだし、逃げたいともあまり思わない。
洗脳に近い形ですり込まれた記憶はなかなか拭えない。
そんな2人が出会ったならば。
お互いの傷を舐め合おうとするのは当然だ。
「この子は共感できる人じゃないと本当の意味で心を開いてくれないわ」
「…なあ、おまえ…もしかして王族に生まれたこと後悔してんの?」
「なんでそうなるのよ」
「ふと思っただけだ。王族に生まれてなきゃ自由に何でもできたんだ」
その代わり裕福な家庭とは限んねえけど、と付け足されリリアナは黙った。
そう思った時期がないわけじゃない。
貧しくても外で自由に過ごしたいと思ったことはある。
妙に現実的な考えばかりをもつ自分の性格はもともとだし、城下を見ては羨ましいと思った。
でも、それだけだった。
「結局はお金持ちサイコーなのよね」
と、冗談で肩をすくめるとギーヴは顔をしかめた。
「国民のカネだぞ」
「だから還元しようとしてるんじゃない。立派なレディになって嫁いで他国の財産をフェールズに流したり、その逆もしたり、ね」
「国を出るつもりか?あいつら悲しむぞ」
「じゃあ、あなたはフェールズになれる?」
「………………は……?」
目の前のアホ面に向かって今度は本気で肩をすくめた。
「冗談よ、バカね」
心をこめてそう言ってやった。
と、そのとき。
馬車が急停車した。