妖精の涙【完】
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僕…ちょっと逃げたい気分です。
怖いんだもんだって。
今は開祭式が終わって2時間ぐらい経って、ちょっとした会議が始まってる。
ちょっとした、っていうか、5年間の振り返りとか今後の方針とかの確認の会議だからそんなに堅苦しい話題じゃない。
いつもはそんな感じらしいんだけど、今回はオルドのこともあって周りからの視線が痛かった。
もちろん僕にもその鋭い視線が向けられていて、一見堂々としているように見えるかもしれないけどすごい帰りたい。
本当に逃げたい。
あと、初めてメイガスの王様を見たけど…なんというか…
どことなくオルドに雰囲気が似てて一瞬驚いてしまった。
その一瞬を鋭いあの眼差しで見られて居心地が悪くなった。
背格好も似てるし、雰囲気も似てるし…
違うところは目の色かな。
赤。
彼…アゼル・メイガスは漆黒の髪に赤い目をしていた。
「それではこれより会議を始めさせていただく」
イケルド公国の王の言葉でハッとし気を引き締めた。
いけないいけない、ぼーっとしている場合じゃない。
僕たちはオルドの後ろに控えるようにして立っているから彼がどんな顔をしているかわからないんだけど、きっと不愛想な顔になってるんだろうな、と思う。
まあ、オルドに社交性は求めてないよ。
だってそれは僕の役目だ。
「初めにこれまでの振り返りから。まず我々イケルドでは…」
ああ、始まった。
僕は一生懸命に資料を目で追う。
あらかじめ会議で言うことは決まっているからこれを読み上げるだけなんだけど、付け足したり訂正したり、あとは質問を受けないといけないこともあって気を緩められない。
どんな質問が来るかわかったもんじゃない。
そしてイケルドや他の国も終わり、メイガスの番になった。
「我々メイガスでは…」
ひゃー。
イケボ。
他の国の秘書官の女性が資料で口元を隠すように持ち直したのがわかった。
頼むから変な空気にしないでくれ…
「質問がある者は挙手を」
司会を務めるイケルド国王が問いかけるが誰も挙手せず…というか関わりたくないのかみんな終始無言だった。
扱いづらい若造だ、とか思ってるんだろうきっと。
だって怖いし。
いるだけで怖いし!
「それでは最後にフェールズ王国」
「はい」
オルドが返事をすると一斉に全員の目がこちらを向いて、僕は背筋が自然と伸びた。
僕の隣にいるポーガス殿はひるまず微動だにしなかったためさすがだなあ、と感心した。
心構えの年季が違う。