妖精の涙【完】
オルドは自己紹介をした後、前王の死因やその栄光を称えて、それから本題に入った。
だよね。
普通そうだよね。
なのにアゼル殿は挨拶無しかい、って思った。
何食わぬ顔でそこに鎮座できるなんて恐ろしい…
本題ではシルバーダイヤが完全に枯渇したことや、天候が良好で穀物が豊作だったこと、殺人事件の件数も少なく交通事故の件数も少なかったことなど比較的平和な内容を述べた。
シルバーダイヤのことを知った各国はため息を漏らしたが、裏を返せばメイガス産のシルバーダイヤのみがこれからは市場に出回ることになり、フェールズ産のシルバーダイヤは古くなるということだ。
つまり、メイガス産の方が価値が上がる。
シルバーダイヤは新しければ新しいほど輝きが強く、確かに家宝などに使われて価値を付けられないものもあるがそれは色がくすぶり本当に売れなくなっただけに過ぎない。
だから、これからはメイガスが台頭することになる。
「質問がある者は挙手を」
その言葉に案の定、メイガス国王が手を挙げた。
「アゼル殿」
「はい」
来たなイケボ。
「我々にあらぬ疑いがかけられているのだがご存知だろうか?」
えー、その質問今するの?
空気読めよー。
「あらぬ疑いとは?」
「以前から言われていることだ。フェールズのシルバーダイヤを我々が盗んだ、と」
ピリッとした空気がこの場を走った。
誰もが知りたいと思っていても誰も触れずにいたこの話。
フェールズとメイガスは隣り合っているから、シルバーダイヤが採掘されてもおかしくないし、その噂が出たのは今から1000年も前の昔だ。
1000年前に突然メイガスでシルバーダイヤが採れるようになり、逆にフェールズでは徐々に減少していった。
ただの偶然かもしれない。
「その噂については耳にしたことはあるが、疑ってなどいない」
「それはどうだろうか。フェールズは野心家だと私は…いや、私たちは思っている」
「なに…?」
一気に周りがザワザワとし始めた。
…なんでこうなるんだろう。
「他の諸国もみな思っていたことだ。フェールズは謎が多すぎる。資源にも自然にも恵まれ豊かな国を創造しているが、それは突然そうなったのだと古文書では書かれている。悪魔と契約したのではないかとさえ書かれている始末だ」
そんなわけないじゃん。
豊かになったのは国民の血と汗と涙の結晶だし、歴代の王の努力の賜物。
ある日突然豊かになるわけない。
「そのような事実はない」
「しらを切るつもりか」
「1000年も前の話を持ち出して何がしたいんだ」
オルドの言葉にごもっとも、と頷いた。
この場に相応しくない内容だ。
「俺たちは今、5年間の振り返りとこの先5年間の話をしている。10年間の話をするための会議にそのような昔の話を出してくるというのは筋違いだ」
うんうん、と頷くと他の国にも頷く人がいた。
きみは焦り過ぎたんだよ。
「…静粛に」
タイミングを見計らってイケルド国王が声を上げた。