妖精の涙【完】
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陛下の…いや、父上の話を聞いた。
ポーガス殿は父上と同じように育てられ、側近として生涯お仕えするのだ、と親に言われていたらしい。
英才教育を受ける中で、父上はよくさぼっていた。
それを止めるのも彼の役目で、その頃を思い出していたのかその目は優しく細められていた。
父上は勉強はできるがやらない人で、外で駆け回る方が好きだったという。
全然想像のつかない話に困惑しながらも頷いてなんとかついていった。
そして即位すると、そのフレンドリーな性格から各国と関係を積極的に持つようになり、時には失敗しながらも活動的で明るい若き王として可愛がられていたという。
しかし他の国も代替わりし、その関係はゼロとなってしまった。
築き上げたものが全て崩れてしまったものの、また始めればいい、と意気込んでいた矢先、正妃から不満をぶつけられた。
あなたがいないと子作りもまともにできない、と。
その当時、やはり活動的に国外に行っていたため妃たちとの時間を全く作っていなかったのだ。
そして正妃の言葉に我に返り子作りのために時間を作るようになったものの、なかなか生まれない。
そのことに対し評議会も目を瞑っていたのだが時が経つにつれ死活問題へと発展していたため、とうとう評議会は父上の外出を禁じた。
外に出る方が好きだった彼はそのことに対してますます不貞腐れ、正妃との時間も増えていったがその気持ちが表れていたのかどうもぎくしゃくとする。
気分転換に中庭を歩いていると、その瞬間が訪れた。
俺の母親と出会ったのだ。
そのとき、父上は変装で騎士の恰好をしていた。
王としてではなく1人の男として惚れ、そして好いてくれた彼女との関係は彼にとっては至福だったが、周りからすれば女に現を抜かせた男として映った。
正妃も彼女の存在に気づいていたがあえて言及しなかった。
したくてもできなかったのだ。
ピリピリとしていたあの空気が嘘のように軽くなり、陛下が笑いかけてくれる。
あの女の存在は気にくわないが良い影響が表れているのは確か…
それに陛下もわかっているだろう。
遊び過ぎてはいけない、と。
ところが、妃たちの考えは甘かった。
第1子と第2子の発覚。
あの女さえいなければこんなことにはならなかったのに、と。
評議会も仕方なくお腹の子のために庭師の女を保護したものの、これからどうするか。
第1子と第2子の交換は可能だが、第1子が王女であれば問題はない。
母子共々どこかに隠せばいい。
しかし第1子が王子で第2子が王女だった場合は…
評議会は頭を悩ませ続けた。
当の父上はとても喜んだという。
一気に2人の子供ができ、王子だろうが王女だろうが妻も子も一生愛する、と。
なんて馬鹿げた考えだ、と評議会は影で非難したがポーガス殿は父上の味方でいようと思った。
最悪の場合は私がなんとかしてみせよう、と。
しかしそれは叶わなかった。
余計なことをすれば家族共々この国にいられなくしてやる、と他の評議会の面々に脅されたのだ。
私の妻のお腹にも子がいる。
家族のために親は強くなれる、といったものだがそれは嘘だったのか。
逆に弱さの方が目立ってしまい、ポーガス殿は自分の不甲斐なさを痛感した。
そして、ついにどちらも王子だということが発覚した。
評議会での最終決議は、第2子を第1王子とし、第1子は母親と同じ墓に入れるという案だった。
ポーガス殿は心を痛めつつ、賛成した。
その案に父上は猛反対した。
私の命令が聞けぬのか。
断じて許さぬ、と。
打開案は出生順を逆にすることだったがこれも却下された。
国民を騙すのか、と。