妖精の涙【完】
俺は聞いていてだんだんとテーブルに項垂れ、肘をつき両手で額をおさえ頭を抱えた。
父上がおかしくなったのではない。
周りの人間がおかしかったのだ。
俺の母親が死んでから気がおかしくなっていったと聞いていたが、こうして話を聞いていればそのニュアンスが違うことに気づく。
一般人と子を作り、評議会の意見をまともに聞かず却下し続ける不埒でおかしな国王として思われても仕方ない。
だが、実際には最も人間らしい国王だったのだ。
そして打開策は…父上も評議会も俺には一切干渉しない、ということだった。
ケイディスと同じように育て、第1王子として生活できるが、何が起ころうと不干渉でいること。
例え身内に暗殺されかけようとも、正妃に殺されようとも、餓死しようとも、一切干渉しない。
例え死んだところで後ろにはケイディスがいる。
できるものなら生き残って見せろ。
つまり…なんだ。
俺はこうして生き残ってしまった以上、これからはたぶん簡単には生きられないんだと思う。
「今までは陛下の目があり事件は起こりませんでしたが…これからは…」
評議会も敵だということだ。
「だからギーヴは味方だって言ったんだね」
ケイディスの言葉に頷いた。
あいつは全部知っていた。
知っていてなお、協力してくれると言ったんだ。
自分の危険も顧みずに…
「そうでございましたか。我が愚息が…」
ポーガス殿は自分の経緯のこともあり、俺たちとギーヴを会わせた。
その行いも恐らくそう簡単にできたことではないはずだ。
もしかしたらもっと引き離すのが遅かったらギーヴはこんなに自由に動けていなかったかもしれない、とふと思った。
長い間俺たちとつるんでいると、不干渉の域を逸脱したと判断されかねない。
例え息子だとしても。
「感謝する、ポーガス殿」
話を聞けてよかった。
俺が素直に感謝を述べるとポーガス殿は驚いたように目を見開き、うっすらとその目を潤ませた。
「お2人を合わせると陛下そのものを見ているように感じられます」
「ええっ…なにそれ」
「確かにオルド様は母親似ではございますが、陛下の面影がきちんとございます」
"私の勝手な妄想でございますが…今ここにいることができるのはその面影がみなの思考を惑わせるのかもしれません"
彼のその言葉に胸が痛み出した。
当時の評議会だって、父上の体裁を守るために議論を交わしていたに過ぎない。
やはり、真の悪者というのはこの話の登場人物の中には存在しないのかもしれなかった…