妖精の涙【完】
*
ティエナは体中の痛みに耐えかねてようやく目を覚ましたが、そこは見知らぬ場所だった。
やけに床がふかふかだと思ったらベッドの上だった。
「う…」
そのおかげで傷の痛みは酷くないものの、やっぱり動こうとすれば痛みを感じてうめき声を漏らした。
ここはどこなんだろう…
城の客室みたいなところだ。
「気が付いたか」
死角から声がしてびっくりしたその弾みでベッドから転げ落ちてしまった。
なんでこんな端で寝転がっていたんだ、と自分を呪った。
体に走った痛みに声も出せずに目を閉じて悶絶していると、横抱きにされてベッドに戻された。
えっ、と思い目を開けると、黒髪で深紅の瞳をした綺麗な男性に見下ろされていた。
見下ろすというか、ガン見?
すごい見られている。
瞬きをあまりしないその赤い瞳がまるで宝石のようだと思った。
「あなたは…」
掠れた声で聞けば、彼は急にティエナを抱き起してベッドに座らせた。
背中の壁には枕がたくさんあって、そこまで痛みはきつくなかった。
「私の預かり知らぬところで部下が手荒な真似をしたようだな。すまない」
「え…?」
てっきりこの人が私を攫ったんだと思ってたけどそうじゃないみたい。
それよりも…そんな美麗ボイスを間近で聞かせないでほしいと思った。
耳がくすぐったかった。
軽く頭を下げた彼をまじまじと観察した。
年は…オルドぐらいだろうか。
でも恐ろしく表情が動かない人だと思った。
せっかくかっこいいのに残念だ。
「失礼いたします…陛下、申し訳ございません」
すると、部屋のドアが開いて知らない白髪のおじいさんが現れた。
腰が曲がって杖を突き、声もしわがれているけどその声の通りはよかった。
そう言えば、と思い窓を見るとカーテンが閉まっていたけどわかった。
もう外は夜だ。
「バレス」
「その女はフェールズの者です」
「なに…?」
え、まだ何も聞かされてないのこの人。
もう夜だ。
なんで?
時間はあったはずなのに、と変なところに気が行った。
ティエナがきょろきょろとするのを無視してバレスと呼ばれたおじいさんはその先を続けた。
「しかも、妖精王の子でございます」
「この女が…」
いや、そんな信じられない、みたいな顔されて見られても全然わからない。
ようせいおう、とは誰だ?
「だが、普通の人間に見える」
ティエナの傷だらけの腕に触れながら彼がそう言うとバレスは不気味に笑った。
「見た目だけでございます。その血の半分には妖精王の血が流れております」
ようせいおうの血…
だめだ、さっぱりわからない。
「だが、こんなに傷つける必要があったのか」
「ですから先ほど謝った次第でございます」
「…もう、いい。下がれ」
「御意」
命令されたバレスはあっさりとこの部屋から出て行った。