妖精の涙【完】


そして服を着終わった彼はまた隣に座った。


「改めて自己紹介をしよう。私はメイガス国王、アゼルだ」

「こっ…!」


国王!?

声にならない叫びは彼女の喉に消えた。


「精魂祭の最中だと言うのにこのようなことに巻き込んでしまいすまない」


と、頭をいきなり下げられたため慌てて上げさせた。

しかし、彼が座っている位置が少し遠く手が届かないため上げさせるのに苦労した。


「アゼル様?…は、どうして私を攫ったんですか」


彼が攫ったわけではないがそういう言い方以外思いつかなかった。

でも彼は気にすることなく答えてくれた。


「君が妖精王の子だという情報をどこかから掴んだバレスが行動を起こした」

「ええっと…申し訳ございません、私はようせいおう、というものを存じ上げておりませんので話を把握できていないのですが…」

「…なるほど」


アゼルは考え込むように腕を組み頷いた。

そのわずかな沈黙をもうるさく感じたのは…きっとアゼルの雰囲気のせい。

若いはずなのにすでに国王の風格があって、こうしているだけで緊張するのが不思議だった。


「フェールズでは民に国の成り立ちが広まっていないのか」


と、1人頷き納得した後でティエナを見た。


「この情報もフェールズでは恐らく一部の人間しか知り得ない情報だろうから、信じるかどうかは君に任せよう」


捕虜にそんなことを言うとは思っていなくて拍子抜けした。

なんだろう。

妙に親しみやすい。


「今から3000年ほど昔、この世界には妖精が多く滞在していた」


一方、話の出だしはあまり親しみやすくなく、現実味を感じられなかった。




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