妖精の涙【完】
悩み事
ラング家は鉱山を私有し、そこではシルバーダイヤが豊富に取れた。
シルバーダイヤとはフェールズ王国でしか発掘されない希少な宝石で、銀色に発光しているように見える透明で硬い宝石だった。
それの加工品を売ることで生計を立てていたが、そのシルバーダイヤはだんだんと取れなくなっていき、ついに枯渇してしまった。
ラング家は路頭に迷い、従業員も全員解雇することになりすっかり過去の栄光は見る影もなくなった。
そんなとき、いつも夏に旅行をしたときに貸し切っていた宿の一家が助けの手を差し伸べてくれた。
その宿で住み込みで働かせてくれることになったが、元貴族には難しいことだった。
骨の髄まで染みついた贅沢な習慣。
だんだんとラング家は疲弊していった。
その手を差し伸べてくれた家族には息子がいた。
スーよりも10歳年上で、小さい頃からよく遊んでくれた優しいお兄さん。
彼は手伝えることが限られているスーを時間があるときは構ってくれていた。
しかし彼は上京することになり、彼女とは離れてしまった。
ラング家が働き始めたのが彼女がまだ5歳のとき。
それからの10年間、彼女は幼いながらに一生懸命だった。
慣れない生活、慣れない空間。
お兄さんが宿からいなくなったのは彼が17、スーが7歳のとき。
そして彼がいなくなってから彼女の世界が変わった。
そこまで激しくなかった。
ちょっと叱られることはあった。
イライラした両親。
それにまだ気づいていないお兄さんの家族。
私が黙っていればそれでいい。
増える見えない痣、心の傷。
自分さえ我慢すれば問題は何もない、アットホームで人気のこの宿の雰囲気を壊したくないというこの気持ち。
でもバレてしまった。
休暇で里帰りしたお兄さんに。
バレたのが彼女が15歳のとき。
長い8年間だった。
1人ぼっちで泣いた8年間。
お兄さんはその手を引いた。
城で働かないか、と。
ここに君を置いてはいけない、と。
そんなことは無理だ、とスーはその手を振り払いたかった。
でもできなかった。
もう疲れ切っていたのだ。
荷物をまとめ早朝に馬車に乗った。
この後どうなるのかなんてわからない。
本当に城で働けるのかもわからない。
それでも、馬車に揺られながら優しい彼の手から逃れようとは思わなかった。