妖精の涙【完】


「ああ、もう時間だな。何か欲しいものはないか。退屈ほど無駄なことはない」


突然そう言われてもなあ、と首を捻る。

欲しいものは特にない。


「適当に見繕うが、それでいいか」


やはり真顔で言う彼に首をひねる。

なんでそこまでして構うんだろうか。

時間が大丈夫か聞いたけど、彼が来てからたぶん5分も経ってない。

そんな合間をぬって来られてもこっちが反応に困る。


「じゃ、じゃあ小説がいいです」

「小説?」

「はい。1日で読めるくらいの」

「…わかった」


どんな本が用意されるかわからないけど、無いよりはましだと思った。

読書は好きだけど、小説を1日で読むとなるともしかしたら読み終わらないかもしれない。


「…また来る」


何にするか考えているのか、こちらを見ずに出て行った彼を見送って盛大にため息をついた。

ああ、緊張した。

なんだろう、目力?

あの赤い目に見つめられるとどうも不安になってくる。


それからはうとうととし、やっと眠って起きた頃にはお昼になっていた。

アゼルが来てから3時間ぐらい経っていた。


「お目覚めですか」


目を覚ますと看護婦がいた。


「すみません、眠っていて気が付きませんでした」

「いえいえ、眠ることは薬よりも効果がありますよ」


…痛み止めよりも、ということかな。


「お粥をお作りしましたがよろしかったでしょうか…怪我人と病人は違いますから」


聞けば彼女は内科が専門らしい。

でも動いてないし食欲も湧かないからそれでいいと言ったら少しだけ笑ってくれた。


「詳しい事情はわかりませんが、陛下と仲がよろしいのですね」

「そ、そんなことは…」


どこをどう見たらそんな考えにたどり着くんだ。


「陛下はどこか人を寄せ付けないオーラがあってどうも苦手で…みなも同じように感じているようです」

「そうなんですか」


あの人、意外と優しいのに。

意外と。


「ご立派な方だと重々承知しておりますが、接しづらいのも確かで話したことのある者は少ないです」

「ふええ…」


口に含みながら相槌を打つと変な声が出た。

ああいけない。

お行儀が悪いと思われる。


「お熱くはありませんでしたか?」

「へいひでふ」


またやってしまった。

気まずくなりお粥を眺める。


「ふふ、焦らないでゆっくり食べてくださって構いませんよ」

「…、はい」


今度は飲み込んでから返事した。

笑われてしまった…


「あなたのそういうところが人を和ませるのかもしれませんね」


ど、どんなところでしょうか…

聞くのが怖いと思った。


「なんでしょうね…無防備なところでしょうか」


無防備。

無防備…?

なに、無防備って。


「何かしてあげたくなります」


いや、全然結びついてないんですけど。

わからないんですけど…?

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