妖精の涙【完】
そして他愛もない話を一方的にして看護婦は帰って行った。
一気にがらんとした部屋の中。
少し疲れたが聞くだけでもだいぶ退屈しのぎにはなっていたのだ、と感じた。
…やっぱり暇だ。
まだ歩けないのかな。
寝返りにも飽きてきて、食べたばかりで寝転がっていたくないと思いベッドから出てみることにした。
まずは枕の端に行き、床に足をおろしてみた。
うん、大丈夫。
そして靴を履き壁に手をついて立とうとすると上手く足に力が入らなかった。
でも痛いわけじゃないからたぶんいける。
そう思って何度か挑戦するとやっと立てた。
やったー、と腕を挙げたら傷が痛み顔をしかめた。
そうだった、まだ痛いんだった。
そこから壁を伝ってゆっくりと歩くとだんだん慣れてきて歩きやすくなってきた。
「ああ…」
歩けるって素晴らしい。
窓に手をついて見下ろすと大勢の人が歩いているのが見えたが、大きな屋敷だから手前から庭、塀、通りになっていてあまりよく見えなかった。
いいなあ。
外に行きたい。
しかしこの部屋から勝手に出ようとは思わなかった。
外にはたぶん護衛がいて難しいだろうし、逃げ出したと知ったらアゼルが悲しむと思ったからだ。
…悲しむ?
こんな酷い目に合わせた人たちのボスなのに?
むしろ悲しんだのは…
オルドだ。
「なんか変…」
彼と離れてむしろホッとしている自分がいて少し嫌だった。
どこかにいったあのワンピース。
今は病人服だけどいつか返してくれるだろうか。
でないと…
自分が悲しい。
あ、なんかすごい悲しくなってきた。
涙が出そうになって慌ててベッドに戻る。
なんでだろ、こんなに悲しいなんて。
そして、今は鎮火している気持ちがまた溢れそうになって無理やり蓋をした。
ダメだ、ここで溢れさせちゃ。
アゼルには悟られないようにしたい。
状況をこれ以上悪化させまいと、アゼルに自分とオルドがどういう関係なのかをまだはっきりとさせていなかった。
そもそも、どういう関係なのかもわからなかった。
妹の侍女。
ただそれだけ。
でも捕虜として機能すると判断された。
…いや、もうやめよう。
こんなこと考えたって意味はない。
そして歩き疲れたのか、そのまますぐに眠ってしまった。