妖精の涙【完】


「オルド!もう心配したんだから!」


ケイディスの声を遠くに感じながら廊下を歩く。

ドアの横に控えた護衛は自分たちに一瞥もくれず棒立ちのままで気味が悪かったが、敵意も好意も感じなかったためこちらも無関心を通した。

そして、何も考えられない空白の頭にケイディスの叱責が飛んで来る。


「オルド!聞いてるの!?」


肩を掴まれ振り向かされると怒った顔のケイディスがいた。

あまり見ない表情だった。


「中にいたのはアゼル殿だよね」

「…」

「もう1人いた気がするんだけど」


そこまで見抜いていたとは驚いたが、こいつも軍人。

待遇の悪い兄と共に生き抜いた弟だ。


「…ティエナが、いた」


ズキン。

頭に痛みを感じた。

いや、心臓かもしれない。

胸のあたりから来るズキズキという痛みが頭まで到達してきたのだ。

無意識に前髪に手を差し込んで額を押さえ俯いた。


「攫ったのはやっぱりメイガスだったんだね。でもどうして?なんで連れ戻さなかったの?」

「拒絶された」


ズキンズキン。

額の痛みは治まらない。

もうどこが痛いのかわからなかった。


「…わかった。詳しい話はとりあえずポーガス殿のところに戻ってからにしよう」


兄のこんな様子にケイディスは口をつぐみそれ以上は何も言わなかった。

無理もない。

自分でも、こんなにダメージを受けるとは思っていなかった。


リリアナ、ギーヴと3人でこちらに向かっていたところをメイガスに襲撃され、乱暴に連れ去られたと聞いたときは怒りを抑えるのに必死だった。

ポーガスがいる手前、下手な動きはできなかった。

評議会の敵か味方か。

父上について教えてくれたが、まだ彼の立場は明らかになっていない。


「俺は城に戻るが、無茶すんなよ」


いったんフェールズに引き返し、事を伝えるべく単独で出向いたギーヴは満身創痍といった目でオルドを見、そして実の父親をちらりと見た。

ポーガスがこの連絡を聞いてどう思ったかわからないが、彼女をよく思っていない側にいるとすればこの上ない好機であることは間違いない。

親子なのにどうして考えをまだ共有していないんだ、とこのときはギーヴを恨めしく思った。

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