妖精の涙【完】
「ところでおまえはいくつだ?」
それらをテーブルに置き、椅子をベッドの横に置いて陣取るようにしてアゼルは座った。
それを見て、ここで彼もリラックスできるようになってきたんだろう、と思った。
サンドイッチに手を伸ばしつつ答える。
「17歳ということになっています。本当の年はわかりませんが」
「何年生きた?」
「9年です」
「そうか…短いな」
見た目のわりには中身は幼い、とでも思われているんだろうか。
「でも経験は豊富ですから」
「具体的に言ってみろ」
「商売もしましたし、花も育てられて、家事もできて、読み書きもできて、買い物もできます」
「その中では私も家事以外はできるな」
「家事ができたら逆に凄いですよ」
ふふふ、と笑うと彼も目元が柔らかい印象になった。
「そういうものか」
「はい!…そう言えば何をお読みになっていたんですか?」
「これか?」
彼は立ち上がりテーブルの上にあった本をわざわざ持って来てくれた。
「おまえが所望した小説だ」
そう言えば小説が欲しいって言ってあったんだっけ。
すっかり忘れていた。
「私が10のときに読んだものだ。久々に読んだがつい夢中になってしまった」
10歳のときって…
15年前の彼はどんなものを読んでいたんだろう。
「どんなお話ですか?」
「…読む気はあるんだろうな」
暗い声色で言われハッとして慌てた。
確かに読む前にネタバレを聞くなんて失礼だ。
「すみません…」
「冗談だ」
冗談だ、と真顔で言われるとなぜかちょっと面白い、と思った。
そんな彼は長い睫毛に縁どられた赤い目を伏せて小説の裏表紙にあるあらすじを読む。
「街で暮らす少年は1人の少女に出会う。彼女は呪いが原因で話すことができず耳も聞こえていなかった。治すためには魔女の薬が必要だとわかり、少年は冒険に出ることを決意する。果たして、少年は無事に魔女の薬を手に入れ少女を救うことができるのか…」
凄いべたべたな冒険もののあらすじだった。
「いかにも男の子が好きそうな内容ですね」
「何を言う。読めばわかるがなかなか面白い内容だ」
と、続けて何かを言おうとした自分に気が付いたのかハッとした表情になり口をつぐんだ。
…自分からネタバレする気ですか、とティエナはじとっと見た。
「まあ、とりあえず読め」
拗ねたようにティエナが足にかけている布団の上にボスンとその小説を投げて落とした。
それを手に取ると布団は四角く沈んだままだった。
「明日で最終日ですね」
ふと、お祭りももう終わってしまうのだと思い呟くとアゼルも頷いた。
「明日、きちんとフェールズの元に返す」
「後悔してますか?」
ふと感じたことをつい口にしてしまった。
でも止めようとは思わなかった。
「成り行きとはいえ、私を怪我させて軟禁して、オルド様を脅して…」
「後悔?精魂祭には何も影響を与えていないのだからするわけがないだろう」
「確かに私とオルド様たち、アゼル様しか詳しく関わっていませんが…」
言いたいことはもっと違う。
なんだろう。
上手くまとまらない。
「私を初日に返してくださってもよろしかったのではないでしょうか」
…違う。
それは違う、と思った。
自ら拒否したのは自分で、その態度がこの結果を招いた。
オルドを脅すようなことをしたのは自分自身だ。