冷たい指切り  ~窓越しの思い~
「伊藤さんなら大丈夫だと思いますよ。
相手に向き合おうとする姿勢は、絶対に伝わるはずですから。
自信をもって頑張ってください。
僕も楽しみにしてます。」

俺の言葉に………何故かクスクスと笑う彼女。

あれっ??

俺…………変なこと言った?

よく分からず、彼女を見ると。

「ごめんなさい。
先生いつも『私』なのに……『僕』になったから。
木村先生と話してる時は『俺』だし。
使い分けてるんだなぁ~って。
『私』から『僕』に変わってるのは………
私に心を許してくれたからですか??」と

確かに………学校では『私』と言っている。

樹や友達には『俺』や『僕』を使うけど……生徒に使ったのは………

初めてかもしれない。

自分の行動に驚いていたら

「嬉しかったです。
誰かに特別扱いをされるのって。
いつも特別は……お姉ちゃんだから。
…………先生は気づいてますよね………。私が何か………悩んでいること。
……………私ずっと、人に相談しても
『よくある事』『子供みたいに拗ねてるだけ』って言われそうで……
ずっと胸にためてたんです。
これからも……そうすると思ってて
だけど………
思った以上にしんどくなって……。
そんな時偶然、屋上でお昼を食べてる先生を見て…。」

「僕ですか?
確かに……時々行ってますけど…………内緒ですからね。
屋上に上がるのは、禁止なので。」

「はい、大丈夫です。
私も違反なのを知ってて上がったんですから、同じです。
それで………
その時落としたご飯に、蟻が寄ってきたみたいで……
先生が『どうぞ、食べて下さい。お仕事ご苦労様です。』って言ったんです。」

ブッ!!恥ずかし~

30前のオジサンが、なにやってんだ!

穴があったら入りたいってこういう事だよ。

「それを聞いて、この人なら自分の気持ちを話しても
大丈夫かな?って思ったんです。
それから……先生のことが気になって……何となく見ていたら
モテるのに、女の子にチャラチャラしてなくて。
誠実な先生だなぁ~って憧れるようになって。
先生にいつか、相談出来たらなぁって思ってたんです。
そうしたら………
担任になって『相談に来て下さいね。』って挨拶してて……
ヨシ、相談しよう!!って………。
ご褒美って………私の話しを聞いてもらいたいんです。」

「それはまた………恥ずかしい所を見られてしまいましたね。
相談は、いつでもして下さい。
私でいいなら、光栄です。
ただし、今の話しは決して他の人には……話さないで下さいね。
もちろん、僕も伊藤さんから聞いたことは……絶対に話さないので!!
今度こそ、本当に二人の秘密ですからね!」

俺がそういうと

「ありがとうございます、」と呟いた。

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