冷たい指切り  ~窓越しの思い~
「伊藤さんは、まだ頑張りますか?」

俺の質問に黙り込む。

「さっきのご飯もそうだけど、本当に一人で頑張る?
あのさ…………
俺が今、怖い声を出したよね?
今でこそ、学校の先生って立場があるから……
あんな声を出してケンカなんてしないけど……。
昔は、よくやんちゃなことをしてたんだよね。
樹は、その頃からの付き合いで………一番心が許せる存在なんだ。
ウチは、母一人子一人の母子家庭だった。
母親は、俺を育てる為に水商売………。
何処にでもある話しで……何処にでもある育ちかたをして……グレていた。
親のせいにして……グレるのは簡単だったよ。
でも、悪さしていた周りは………一人抜け二人抜けして……
時が来たら普通の道を、歩き始めた。
いきなり塾に通ったり………。
流れに乗り遅れた俺は、一人先の見えない道を進んでいたんだ。
暗い道を闇雲に歩いていたら『よう!』って樹が現れて………
『和君、今度は塾で暴れよう!』って誘われて……
気づくと、一緒に教師をやってた。
あの時、樹が声をかけずに……自分一人で違う道を歩いていたら……
今の俺はなかったと思う。」

俺と樹の昔話を、真剣に聞いている。

「俺にとっての………樹のような存在に………
伊藤さんにとって…………俺がそうなれたらなぁって思って………
教師の枠からしたら違反でも……この家を貸したんだ。
伊藤さんは今、昔の俺のように………暗闇の中を歩いているように見える。
出口が見つからずに、ドンドンドンドン一人で進んでる。
だから、あえていうけど…………
『もうそろそろ、終わりにしよう。』
一人じゃないんだって……頼っていいんだって………思って。
俺一人だと限界があるから………樹にも聞いてもらって協力してもらう。
3人で頑張ろう。」

何がこんなに……………この子に対して熱くさせるんだろう?

初めてのクラス担任に張り切ってる?

それとも、昔の俺と同じような気持ちの彼女に同情してる?

自分でもよくわからないが………救いたいって思う感情は、本当だと思う。

隣で泣く彼女は………どう思っているんだろう?

迷惑??

ほっといて欲しい??

助けてもらいたい??

先ずは、彼女の気持ちを聞き出すことからはじめよう。
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