冷たい指切り  ~窓越しの思い~
「お疲れ様です。
みんなには、内緒でお願いしますね。」と言って差し出したのは……

カルピス。

女の子が何を飲むのか分からず

この間生徒が持っていたのを、思い出して買ってみた。

片付け始めた机の上に置くと

クスクス笑って「ありがとうございます。」とお礼を言われる。

方眉を上げて、どうした?と質問すれば

「お姉ちゃんの大好きなジュースだったから。
うちの姉も、この学校の卒業生で……結構な有名人だったんです。
特別、頭が良かった訳でもしっかりしていた訳でもなくて……
どちらかといえば、出来ないことの方が多い人で……。
でも、先生にも生徒にも人気があって……誰からも好かれてたんです。
今でも『姉ちゃん、元気にしてるか?』って聞かれることが多くて……。
誰かしら……このジュースを差し入れてて
私の頭の中では、お姉ちゃんのジュースになってたんです。
だから…………
私にもらえて…………嬉しくて!」

そう言って、本当に嬉しそうに………大切に両手で握りしめた。

何とも言えなかった………。

一本のカルピスを、こんなに喜んでもらえるとは。

俺は密かに………

『このクラスにいる間は、差し入れはカルピスにしよう』と心に決めた。
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