冷たい指切り  ~窓越しの思い~
プレゼントをもらい、食べ物も底をつきはじめた頃

伊藤さんのお姉ちゃんから

『今日は彼氏の所に泊まるの?』とメールが届いた。

慌てる彼女に『帰る』とメールをさせて、お開きにする。

「今日は、ありがとう。送るよ。」

前回は体調の悪さもあり、すんなり乗ったけど……

今回は、遠慮して中々乗ってくれない。

「大丈夫です。電車で帰ります。」

「ダメに決まってるでしょう?乗って。
こんなに暗くなって帰せないよ。」

「でも…………先生、アルコール………。」

「ノンアルだから。」

樹じゃあるまいし、生徒といるのにアルコールを飲むわけがない。

………て言うか、飲んで車は運転しない。

渋々といった感じで乗ってきた。

「勝手に来たのに…………すみません。」

助手席に座った彼女は、終始俯いている。

「お姉ちゃんに挨拶していい?『彼氏です。』とは言わないから。」というと

頑なに首を振る。

「でも、これからもあの部屋を使うなら……伝えておかないと
心配するでしょう?」

「ダメです。…………だったら………使いません。」

俺の迷惑を考えてだろうけど……使いませんって………

使わずにどうするつもりだ?

何かあればまた家出して、転々と過ごして体調をくずし………

大学は県外に出て、帰って来ないのか?

まだ子供だと分かっていても………浅はかな考えに苛つく。

「だったらそうすれば?」

投げやりな俺の態度に、ハッとしてこちらを見る。

みるみる溜まる涙。

「ここで大丈夫です。」というと………信号で止まった時に降りようとする。

「アホ!!」

怒鳴り声も空しく彼女は降り、ドアが閉まった。

後ろの車のクラクションに………走り出すしかない。
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