冷たい指切り  ~窓越しの思い~
「いつもこのコーヒーなんですね。」

「伊藤さんもカルピスでしょ?」

「私のは、春に先生にもらってからですよ。
でも先生は、以前からじゃないですかぁ。」

確かに、ここ何年か飲んでいる。

「私が先生に飲み物を奢ってもらったのは…………
カルピスが初めてではないんです。
以前、父の浮気現場を目撃したって言いましたよね?
あの日、流石にショックだった私は………学校に戻って来たんです。
教室で涙を流していたら、廊下を通っていた先生に気づかれたらしくて
「どこか痛いところがありますか??」って聞かれて……
首を振ると、何処かに立ち去ったんです。
次に戻って来た先生の手には、2本のコーヒーがあって
『コーヒーですけど、良かったらどうぞ』と差し出されたんです。
覚えてらっしゃいませんか?」

初めて聞いた。

俺は以前………それも、伊藤さんにとっての特別な日に………関わっていたのか。

首を振る俺に

「それから、私にとって先生は………特別な人になったんです。
学校の先生とは違う………。
恋愛はしたことないから『恋の好き』は………分からないけど……
先生のことは……人として『好き』だなぁって思って。
先生に憧れて尊敬していたから……
先生が担任になった時は、びっくりしてあんな自己紹介になっちゃったけど。」

そう言って笑う彼女は、照れ臭い俺と違い………真っ直ぐな目をしていた。

「だから、先生に聞いてもらいたいって思ったし
相談にのってもらえたこと……本当に嬉しかったんです。」

それで………バースデープレゼントが缶コーヒーだったんだ。

俺に思い出して欲しかったんだろうなぁ。

…………………だから…………ショックだったんだ。

何日も…………顔が出せない程。


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