夢の世界で会いましょう
2異世界の子供
俺らは準備があるから、優奈は街の中でも探索しておいで。美味しいタルトのお店もあるし
宿屋でライナに言われた言葉に何も考えずに二つ返事をした優奈
彼女は今、軽率な自分に後悔した。
美味しいタルトを口に出来た事は、最高だった。
しかし、その後が問題だった。
「勇者って油断し過ぎだよね。だってこんなに簡単に奪われてしまうのだから」
見た目は村の住民である少年の姿だった。
幼さが残る、可愛らしい外見に似合わない短剣を握り締め、優奈の背中に突き付けていた。
黒髪の少年が持つ、異様に紅く輝く瞳が恐ろしく、優奈は逃げる事が出来なかった。
それは蛇に睨まれたカエルの気持ちに似ていた。
「人間、逃げるなよ?大人しく俺と村まで出てもらう」
(ひぃっ?!な、ナイフの先端あたってるし)
少し前に遡る。
今から30分前のことである。
「んーーー!美味しい!」
桃のタルトを注文した優奈は至福の時間を味わっていた。
「いやー、夢の世界でもケーキ食べられるとは思って無かった」
今までこの世界に来てからあまりいい事が無かったこともあり、益々ケーキで幸福感を感じてしまう。
(現実世界よりも美味しいって思うのは夢のせいかな?現実世界にも、こんなに美味しいのがあればいいのに♪︎)
それ故に、優奈は油断していた。
この村には結界がある事もあり、魔物など来ないと思っていた。
「お姉ちゃん、タルト好きなの?」
声がする方に顔を向けると、そこには少年がいた。
外見から推定すると、小学生の中年位ではないだろうか。
くりっとした濃い紅の瞳が可愛らしく、白い肌と対照的の為、余計に美しく見えた。
「この村で見ない人だから、勇者様の仲間かなって思ったんだけど、合ってる?」
「な、仲間って言うほど、大した者じゃ…ないけど、一応…今は一緒だよ?」
「よかった、合ってたんだ」
正解した事に嬉しそうに笑う少年が可愛らしく、優奈の母性本能をくすぐった。
「き、君は1人?親とか居ないの?」
「ん、今は1人。勇者様が見たくて、こっそり来たんだ」
少年は優奈の手を掴むと、ぎゅっと強く握る。
「ねぇ…お姉ちゃん…勇者様に会いたいの」
身長差から生じる上目遣い、瞳に涙を溜めながら見つめてくるその姿は、あまりにも可愛らしかった。
案内する為に離席し、道を歩いた途端この有様だ。
(我ながら単純だ…)
己の短絡的思考に反省するも、打開策は無く。
仕方が無く、言う事を聞くことにした。
「助け求めようと声出したら刺すから。これ、毒付きだから。掠ったら死ぬよ」
にこにこと答える少年に優奈は何度も首を縦に振る。
この緊張感を少しでも和らげたいと思った優奈は、少年に声をかけてみた。
「あ…あのさ…君は…なんて言うの?ほら、名前とか聞かれたら困るじゃん?」
「……シオン」
「…えーと、シオン君…。私は勇者と一緒に居るけど、戦える訳でもないし、むしろゲスト的な存在で…」
「異世界の子供だろ」
優奈は悟った。
シオンは自分が何者であるか理解した上で襲ってきたと