夢の世界で会いましょう

3君の言葉は魔法だね

★★★

(……あれ?こっちの世界でも…寝てたの?)

優奈は眠たい瞼を擦り、辺りを見渡した。
焦点がゆっくりと空い始め、周りに何があるのか、理解出来てきた。

どこかの室内で、ちょっと小汚いシーツが身体にかけてあった。

(……ん?確か私はシオンに連れてこられて…)

「異世界の子供、目が覚めた?」

部屋の隅に蹲っているのは、シオンだった。

「途中で寝るとか、どんだけ神経が太いの」

苦笑気味に笑うシオンの顔には、少年らしい愛嬌が見えた。

「優奈」

「え?」

「私の名前は優奈よ。異世界の子供なんて長いし、呼ばれても振り向きたくない」

「……判った」

シオンは困惑の色を見せつつも、首を小さく縦に振った。

「これ、掛けてくれたんでしょ?優しいところあるじゃん」

優奈はシーツを掴むと、にこりと微笑んだ。

シオンはあからさまに眉間にシワを寄せ、優奈を睨みつけた。

「さっきまでは怯えていたクセに。寝たら強気になるって…アンタどんだけ神経が図太いんだよ」

悪態をつくが、シオンの頬は少し赤く染まっていた。

「ボクは優奈を殺したい訳じゃないから、安心しろ。俺は勇者に用がある。アンタは人質」

「勇者に用があるなら、直接話せばいいのに…」

「それじゃ意味が無い…」

言葉を続けようとしたが、ぴくっ、とシオンは小さく反応した。

外の気配を伺い、口元を歪めた。

「悪いな優奈。アンタにはもう1つお仕事してもらうよ」

シオンは口元に人差し指を当て、小さく呟き始めた。

突然、優奈は動けなくなった。
手足が動かない。
顔も動かせない。

呼吸、目線を動かす事しか出来なかった。

「余計な事されたら、意味無いから。動かないで、ボクの計画に付き合ってくれ」

シオンは優奈の身体を簡単に抱き上げ、担いで行った。
外見から想像出来ない程の力を有しているようだ。


「さてさて。時の魔王を殺した勇者、俺に勝てるかな」

シオンはこの日の為に用意していた舞台へ足早に進んで行った。

★★★

ライナらは優奈の気配を辿り、とある部屋の前まで来ていた。
大きい扉が2人の進行を妨げていた。

「ライナ。冷静にやれよ」

「……判っている」

普段のライナと違い、怒りに満ちた瞳は闇を抱えていた。

ライナは一息吐くと、閉ざされた扉をゆっくり開けて行く。


「意外と時間かかったな。待ちくたびれたよ」

部屋の奥で腕を組みながら立つシオン。
その横には動きを封じられた優奈がいた。

「暇だから優奈の体で遊んでいた所だ。如何にも勇者を待つ健気な女の子って感じにしてみた」

優奈は膝をつけ神に祈るようなポーズを取っていた。

シオンならば動かせる事もあり、遊び心で弄っていたのだ。

身体に触れただけだが、あえてライナが嫌がる言葉を選び、シオンは彼を挑発した。

「扉を閉めに来るこの時をずっとずっと待っていた」

シオンの紅き瞳は異様に輝き、獣のような鋭さを見せた。

「人間らを守る鍵である君を殺す事を」
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