愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
咄嗟に、「なんとなく見ていただけで、深い意味はないんです」とごまかそうとしたが、目を泳がせたことでなにかを隠していると気づかれてしまったようだ。


桐島さんの右手が、私の顎をすくう。

心臓を波打たせて彼を仰げば、目の奥を覗き込まれる。

優しく諭すような声で、「いつも君の気持ちを理解していたい。わけを話してごらん」と促された。


ごまかせそうにないみたい……。


観念した私は、今日の正午頃に営業部前の廊下で桐島さんを見かけ、その時に抱いた気持ちをたどたどしく打ち明ける。

すれ違った女性社員に、私が桐島さんの恋人だと自慢したくなったこと。

優越感が湧いて、即座にそれを戒めたこと。

それらを正直に説明して、「性格が悪くなったみたいです」と眉尻を下げれば、彼が吹き出した。


私はなにか、おかしなことを言っただろうかとキョトンとしたら、肩を揺するほどの笑いを収めた彼が、私の頭を撫でて言う。


「可愛い悩みだと思ってね。俺はとっくに有紀子のことを自慢しているよ」

「えっ!? 誰にですか?」

「ベルギーに住む親しい友人たちに」


桐島さんが言うには、私と交際を始めてすぐに、日本で最高の恋人を手に入れたと、学生時代からの友達数人にメールを送ったそうだ。

私の写真まで付けて。
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