愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
桐島さんは褒め上手で、少しずるい。

そんなふうに言われたら、スケッチブックを「どうぞ」と差し出すしかない。

「ありがとう」と素敵に微笑んだ彼が、縁側に腰掛けてスケッチブックを開いたので、私は恥ずかしさに顔を火照らせて、立ち上がった。


「あの、冷たい麦茶を持ってきます。縁側は暑いので、座卓の前で待っていてください」


麦茶というのは、絵を見られる照れくささをごまかすための口実のようなもので、台所へと小走りに逃げ出した私の後ろには、クスリと好意的な笑い声が聞こえた。


グラスふたつに麦茶注ぐのに三分ほどをかけ、速い鼓動を鎮めてから、お盆にのせて居間に戻った。

桐島さんは私の水彩画を見終えて座卓に置き、座布団の上にあぐらを組んで座っている。

彼に渡したスケッチブックは新調して間もないので、今日描いたものを含めて四枚しか見せられる絵はなかった。


彼に麦茶を出し、私は向かい側に座る。

「素敵な水彩画でした。ありがとう」とスケッチブックを返されて、ホッとしたのも束の間、「今まで描いた絵はどれくらいあるの?」と問いかけられてギクリとした。

「それと同じようなスケッチブックが百冊くらいです……」と正直に答えつつも、まさか全て見せてほしいと言われるのではないかと危惧していた。

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