愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
先週、出勤前の彼のワイシャツの背にくっきりとしたシワが一本入っているのに気づき、私はアイロンをかけてあげた。

それは頻繁にあることではなく、大した労力でもない。

お礼はその時に言ってもらった『ありがとう』の言葉だけで充分である。

食事の支度や掃除は下宿代をいただいているのだから当然のことであるし、この古めかしい下宿屋を素晴らしいと言ってくれるのは桐島さんくらいのものだろう。

こちらこそ感謝で一杯だ。


当たり前のことしかしてあげられない私に、こうして高級チョコレートを差し入れてくれる桐島さんは大人で、『こんな優しい人が兄だったらよかったのに……』と心の中で呟いた。

頑張っているつもりでも、やっぱり私では頼りない面もあり、弟に事あるごとに『将来は姉ちゃんを楽にさせてあげる。恩返しするから』と言わせてしまうのが、少し心苦しい。

それで桐島さんを兄にと、欲張りな妄想をしてしまった。


「桐島さんは、どんなお仕事をされているのですか?」と聞いたのは、彼の存在をもう少し身近に感じたいと思ったからである。

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