愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
「紫陽花荘を私に売ってください。それと、もうひとつお願いがあります」

「な、なんですか?」

「ここに住んでください。つまり、私が大家で有紀ちゃんが下宿人です。家賃はいらないので、代わりに朝夕の私の食事を作ってもらいたい。いい条件だと思うけど、どうだろう?」


兄のような優しい瞳に、今にも泣きそうな顔をした私が映っていた。

虚をつかれた彼の提案に、私の胸が大きく揺さぶられ、ここ数日は止まっていた涙が、静かに溢れ出す。


彼は、大家と下宿人の立場を逆転させることで私から経済的な不安を排除し、紫陽花荘で暮らしていける未来を与えてくれようとしていた。

それだと、外で働くこともできるし、金銭的な余裕ができて、私と弟の未来は一気に明るくなる。


ありがたくて、希望を見つけた思いで喜びが湧き上がる。

けれども、そこまで甘えていいのかという申し訳なさも、同時に感じてしまう。

桐島さんは兄ではなく他人なのだから、そこまで親切にしてもらう理由はない。

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