愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
聖域に踏み込んで
◇◇◇

データを消去されて、桐島さんに助けてもらった日から二カ月ほどが経った。

四月上旬の東京は強い風が吹いている。

通勤途中に見た桜の木は、九割方の花びらを散らしてしまっていた。


六月下旬に発売予定のアイスクリームパッケージは無事に完成し、今、私はハロウィン向け新商品の包装デザインを手掛けている。

外部のイラスト会社に発注して送られてきたカボチャやオバケの画像はとても愛らしく、それでいてモルディらしい上品さが感じられた。

それらを組み合わせ、文字を入れたり背景を決めて色調を調整するのが、今の私に与えられている仕事であった。


昼休み前のうららかな日の差し込む自分の席でノートパソコンに向かい、真剣に作業していると、斜め後ろから声をかけられた。


「有紀ちゃん、調子はどう?」


聞き心地のよいその声は、桐島さんのもの。

忙しい社長業の合間を縫って、今日も私の様子を見に来てくれた彼に振り向けば、私の顔が自然と綻ぶ。


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