独占欲高めな社長に捕獲されました
「こんにちは。ゆっくりしていってくださいね」
おばあちゃんがカウンターから出てきてにっこりと微笑む。
時計を見ると、もう十時だ。開店時間と同時にお客さんが来るなんて珍しい。
男性は私に気づく様子のないまま、おばあちゃんに柔らかい笑みを返すと、飾られている絵を一点一点集中して見つめる。
声をかけようかと思ったけど、やめた。おじいちゃんの絵を見てくれている彼の邪魔をしてはいけない。そっとガラス戸を閉じる。
画廊によってはべったりくっついて接客し、なんとか絵を買わせようとするところもあるみたいだけど、おばあちゃんがそういうのを嫌うし、私自身も買ってくれなくていいから、ゆっくり楽しんでほしいというスタンス。
海に面したこのあたりの素朴な風景や、おじいちゃん自身がヨーロッパに留学していたときに見た、農業や漁業に従事する人々の様子を描いた絵は油彩も水彩もある。
どれも柔らかい色遣いで、水面に反射する光の一粒まで緻密に書かれている。人々の表情も優し気で、悪い人なんてこの世にはいないみたいに感じる。
そんなおじいちゃんの絵が、私は大好きだ。