独占欲高めな社長に捕獲されました
誰も気にしないホテルのロビーの絵を真剣に見ていた彼だもの。きっと絵が好きなんだ。おじいちゃんの絵、わざわざ見に来てくれたのかな。楽しんでくれるといいけど……。
私はテーブルを拭くフリをし、ちらちらとガラス戸の向こうに見える彼の姿を気にしていた。
二十分後、一通りおじいちゃんの絵を見終えた彼が、こちらにやってきた。どきりとする私より先に、彼がガラス戸を開く。
「すみません。こちらの責任者の方は」
「はあい」
カウンターの中から手を拭きながら出てきたおばあちゃんに、名刺を差し出す彼。
「はじめまして、横川さん」
おばあちゃんは小さな名刺を持って、それを近づけたり遠ざけたりする。老眼で、名刺の小さな字が読めないのだ。
「おばあちゃん、老眼鏡」
カウンターに置いてあった老眼鏡を渡すついでに、名刺を覗き見た。
「ひっ」
息を吸ったまま、吐けずに絶句する。
その名刺にプリントされていたのは【西明寺ホテル(株) 社長 西明寺昴】。
こ、このひと……昨日会ったときも、どこかで見た覚えがあると思った!