独占欲高めな社長に捕獲されました

 私はお父さんの話題をやめ、新しくとりかかる仕事の話をした。

『ああ、あのホテルね。おじいさんと一緒に行ったことがある。素敵なところね。あそこの改装を美羽が任されたなんて、鼻が高いわ』

「任されたなんて……結局は先輩とペアでやるのよ」

『それでもいいじゃない』

 おばあちゃんの明るい声にホッとする。

「木金、泊まりに行くから」

『えっ? それはいいけど……クラシカルホテルに泊まった方が、色々と都合がいいんじゃない?』

「仕事とプライベートは分けたいの」

 松倉先輩と同じ屋根の下に泊まるのが嫌だとは言わなかった。わざわざ余計な心配をかけることはない。

『そう。私はいいのよ。いつでも歓迎するわ』

「じゃあ、木曜の夜に」

 実家に帰れると思うと、少し気分が楽になった。ささっと夕食をとり、深夜まで画集を広げたりネットで様々な絵画の画像を見る。

 課題のロビーに飾りたい絵画の方向性は見えてきた。めぼしい絵画のタイトルをノートに書き留める。

 実家を失うわけにはいかない。私やお父さんが帰る場所を守らなきゃ。


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