独占欲高めな社長に捕獲されました

西明寺ホテル。それは私が勤める会社の名前。まさか社長が実家に現れるなんて。

社長なんて入社式以来直接会う機会もなく、滅多に社報も見ないので、顔を忘れてしまっていた。

ただ、やたら若かったということだけは覚えている。多分今年で二十九歳くらいのはずだ。どうして社長が実家に?

「西明寺ホテルさん……。社長さん自ら足を運んでくださって申し訳ありませんけど、私の意志は変わりません」

穏やかな口調で言うおばあちゃん。狼狽えているのは私だけのよう。

「ね、ねえどういうこと?」

おばあちゃんは、私が西明寺ホテルの社員ということを当然知っている。けど、それには触れずに答えた。

「社長さんの会社ね、この辺りの土地を買い上げて新しいリゾートホテルを作りたいそうなのよ」

「えっ、初耳なんだけど。しかもすぐそこに、あるじゃない。他社のホテルが」

既に別のホテルがここから目と鼻の先にある。等間隔で植えられた安っぽいヤシの木が小さなプールの周りを囲んでいる。

できた当初はにぎやかだったけど、最近はそうでもなさそう。さすがに夏休みになると、駐車場が混雑しているのを見かけるけど。

< 12 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop