独占欲高めな社長に捕獲されました
西明寺ホテル。それは私が勤める会社の名前。まさか社長が実家に現れるなんて。
社長なんて入社式以来直接会う機会もなく、滅多に社報も見ないので、顔を忘れてしまっていた。
ただ、やたら若かったということだけは覚えている。多分今年で二十九歳くらいのはずだ。どうして社長が実家に?
「西明寺ホテルさん……。社長さん自ら足を運んでくださって申し訳ありませんけど、私の意志は変わりません」
穏やかな口調で言うおばあちゃん。狼狽えているのは私だけのよう。
「ね、ねえどういうこと?」
おばあちゃんは、私が西明寺ホテルの社員ということを当然知っている。けど、それには触れずに答えた。
「社長さんの会社ね、この辺りの土地を買い上げて新しいリゾートホテルを作りたいそうなのよ」
「えっ、初耳なんだけど。しかもすぐそこに、あるじゃない。他社のホテルが」
既に別のホテルがここから目と鼻の先にある。等間隔で植えられた安っぽいヤシの木が小さなプールの周りを囲んでいる。
できた当初はにぎやかだったけど、最近はそうでもなさそう。さすがに夏休みになると、駐車場が混雑しているのを見かけるけど。