独占欲高めな社長に捕獲されました
スケッチブックに、大体の輪郭を描く。ここに時間はかけない。顔を楕円で描き、中心に線を入れる。目や鼻など、パーツの位置を決める。
いざ描き始めると、不思議なくらいスムーズに手が動いた。小気味のいい音を立てて滑る鉛筆の先が、丸くなっていく。
挑戦的な瞳。人を馬鹿にしたように笑う、悪役の唇。
その下にある素顔を、私はまだ見ていないのか。あるいは、この意地悪な顔が、この人の素顔なのか。
途中で考えるのはやめた。ただそこにいるひとりの男性を、スケッチブックに写し取ることに集中した。そしてそれは、難しいことではなかった。
「はい、できました」
ふうと息をついて時計を見る。描き始めてからちょうど三十分経ったところだった。
「早いな」
置いた鉛筆の表面が、汗でしっとりと湿っていた。立ち上がらずにスケッチブックを見ていた私のそばに、社長が近づく。
ずっと同じ姿勢を取るのは辛いものだ。しかし社長は体が痛そうな表情を見せなかった。普段から鍛えているのかもしれない。
「ふうん、やはりうまいな。横川の遺伝子のおかげか」
「それ、褒めてます?」