独占欲高めな社長に捕獲されました
「はい、持っていって」
「どうして私が」
「いいじゃない。年寄りの私より、あなたに運んでもらったほうが嬉しいに決まっているわ」
そんなことあるか。
言い返す暇もなく、トレーを突き付けられた。反射的にそれを受け取る。
仕方ない。か弱い年配者を狙う悪徳業者め。自分の会社だけど。私がきっぱりお断りしてやる。
どうせ末端のいち社員と社長が顔を合わせることなんてそうそうないんだ。仕事中はバッチリメイクだし、素顔に近い今の顔を覚えられたとて、恐れることはない。
私は意気込んで社長の元に向かった。
「どうぞ」
コーヒーとクッキーをテーブルに置く。
社長がコーヒーを一口すすった時、こちらから口を開いた。
「それを召し上がったら、お帰りください。祖母も私も、ここを売る気はありませんから」
おばあちゃんが優しそうだからって、何回も来るんじゃないわよ。
にらみつけるけど、社長は平気な顔でクッキーをつまみ、口に入れた。
「うん、うまい。あなたのおばあさんは素晴らしい腕をお持ちだ」
「おだててくださらなくて結構です」
「いや、これは本心です」
社長はもう一口コーヒーを飲むと、こちらを見上げた。