独占欲高めな社長に捕獲されました
「あなたはこの名前を、当然知っているでしょうね」
目をむいた私に、社長は不敵に微笑む。それは今までのものとは違う、悪魔のような微笑みだった。
「我々があなた方に与える選択肢は二つ。ここから立ち退くか、ただちに借金を返済していただくか。立ち退いていただけるなら、借金の件はないことにして差し上げます」
「ただちにって……」
指先が震えるのを感じた。五千万なんて、急に用意できるわけがない。おじいちゃんの遺産も、そんなに残されていないだろう。
ぎりぎり残っていたとしても、それはおばあちゃんの老後の資金を全て吐き出すことになる。今後の生活ができない。
「でも、これは父の借金です。父が返済すべきで、私たちには関係ありません」
お父さんは画家で、かなりの自由人だ。私が幼いころから絵を描くために世界中を旅していた。絵が売れても、そのお金はほとんど旅費として使われてしまう。そんな生活に耐えられなかった母は、父と離婚し、今は再婚相手と幸せに暮らしているらしい。
私が東京の大きな会社を選んだ理由には、仕事を通して実質行方不明状態のお父さんの居所がつかめるかもしれないという目論見もあった。