独占欲高めな社長に捕獲されました

「今週はよく頑張ったんじゃないの」

 胸の前に拳を突き出されたので、反射的に手の平を出す。拳が開き、私の手の平にぽとぽとと二つ、飴玉が落ちてきた。

 何の変哲もないのど飴。だけどその飴を見た時、何故か泣けてきた。

 もう仕事の時間終わったし、少し泣いたっていいよね?

「ありがとうございます……」

 頭を下げると同時にぼたぼたと雫を落とした。顔を上げると、松倉先輩がぎょっと目を見開いていた。

「な、なんだよ。俺今日は虐めてないよ?」

「うわあぁぁん」

「ちょ、どうした」

 わんわん泣きだした私と松倉先輩を、残っていた社員が冷たい目で見ながら去っていく。

「おいおい、やめてよ。まるで俺が悪いことしたみたいじゃない」

「先輩、先輩私……」

「んんん?」

「もう頑張るの、疲れましたぁぁぁ」

 涙腺が崩壊するって、こういうことを言うんだろう。

 私は嫌いなはずの先輩によりかかって、大声で泣いた。別によりかかるのはトーテムポールでも電柱でも何でもよかった。ただそこに先輩がいたというだけ。

 いったい私は何のために頑張っていたんだろう。実家の手伝いも、絵を探すことも、新しい仕事も。

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