独占欲高めな社長に捕獲されました
8 幼い頃から大好きな手
「ところで社長、どうしてこんなところへ……」
「その呼び方はやめてもらおう」
電気ポットでお湯を沸かしてコーヒーを淹れて出す。小さなテーブルの前に胡坐をかいて座る昴さん。こんなにワンルームが似合わない人、初めて見た。
「それよりまず、さっきの電話について話す必要がある」
『お前に会いたかったから』というような甘い言葉を期待していた私は、内心落胆しながらも背を正す。昴さんの表情には緊迫感が漂っていた。
「いったいなんの電話だったんですか」
電話の相手は明らかに英語圏ではない外国の人だった。そういうところに知りあいはいない。
そう思ったとき、ハッとひらめいた。
いた。すごく身近に、外国を放浪している人が。どうして今までピンと来なかったんだろう。
「もしかして、父のこと?」
尋ねると、昴さんはこくりと頷いた。
「彼は今、ハンガリーにいるらしい」
「ハンガリー!?」
それ、どこらへんだっけ。あ、ヨーロッパか。オーストリアとルーマニアの間ね。公用語は英語ではなく、ハンガリー語だったっけ。