独占欲高めな社長に捕獲されました
昴さんの説明を聞いているだけで頭がクラクラした。全く知らない土地での乗り継ぎほど怖いものはない。

「昴さんがいてよかった……」

「そのセリフは全て片付いてからにしろ」

 気づいてみれば男の人と二人で海外なんて、まったく初めてのことだ。お父さんのことがなければ、もっとワクワクしたんだろうな。初めての二人きりの旅行が、お父さんを救出する旅になるなんて思わなかったよ。

 夜十時台のフライトでウィーンに飛び立ち、ドバイの空港を経由してウィーンに着いたのは現地時間のお昼頃だった。

「そういえば、職場に連絡するの忘れていました!」

 ハンガリーに向かう特急電車の中で、唐突に思い出した。昴さんが買ってくれたサンドイッチを持ったまま、ぶるぶると震える。

「心配するな。お前のとこの課長には話を通してある」

 落ち着き払ってコーヒーをすする昴さん。さすがぬかりない……。

 周囲では異国の言葉が飛び交っている。懐かしいヨーロッパの空気も景色も、楽しむ余裕は今の私にはない。

 お父さん、どうか無事でいて……。

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