独占欲高めな社長に捕獲されました
緊張したままハンガリーに到着したのは、日本を出ておよそ十五時間後だった。現地では多少英語も通じるものの、やはりハンガリー語が多い。
ブダペストで拾った黄色のタクシーに乗り込み、昴さんが病院の住所を告げる。
「二十分ほどで着くらしい」
運転手の言葉を翻訳してくれた彼は、疲れた表情を見せずに自分の膝を叩いた。
「寝ていていいぞ。膝枕してやろうか」
「え、遠慮します」
私の緊張をほぐそうとしているのだろうか。飛行機の中でも電車の中でも、あまり続けて眠れなかった私を気遣ってくれているようだった。
約二十分後、タクシーが案内してくれたのは、ちょっと古めの四階建ての建物だった。どうやらここが病院らしい。
入口に近寄っていくと、ひとりの中年女性が手を振ってきた。
「西明寺社長さん? ワタシ、通訳のアンナです」
「どうも西明寺です。よろしくお願いします」
小太りでメガネをかけた、人の良さそうなハンガリー女性。戸惑う私をよそに、昴さんは笑顔で挨拶をした。
「細かい医療用語はわかりにくいから、通訳を頼んでおいたんだ」
短くされた説明。日本にいる間にそこまでやっておいてくれたとは。驚きと同時に感動する。