独占欲高めな社長に捕獲されました
やりがいのない仕事で一発OKをもらった私は、職場からかなり離れたその場所から直帰することを許された。
普段仕事をする本社は、東京都内にある。昔からある交通事業を基盤に、不動産、ホテル・リゾート事業など幅広い分野に手を広げている巨大グループの中の一社。
ホテル・リゾート事業を統括するわが社の中で、私はホテルの内装デザインをする部署に所属している。
デザイナーの意志に沿い、そのホテルのコンセプトに合う壁紙や家具、絨毯などを探し、仕入れてくる。安く仕入れられるように交渉もする。
といっても、新しく建設されるホテルの部屋を任されたことはまだない。
老朽化したホテルの改装だとか、今のような観光ホテルのイベント用の部屋を手掛けた程度だ。
ロビーにさしかかったとき、壁にかかった一枚の絵の前で立ち止まる。
四つ切画用紙くらいの大きさで、お湯に浸かった赤い顔の猿が、なぜかおちょこでお酒を飲んでいる。そんなほっこりする絵だった。
この辺が温泉地だからだろうけど……。
私は首をひねる。ほっこりする日本家屋風ホテルとか古民家風宿なら、これでもいいかもしれない。でもこのファミリーホテルは、天井はシャンデリア、ツルツルのロビー。どこにでもある、近代的な建物。
この絵は、ここにあるべきものではない気がする。