独占欲高めな社長に捕獲されました
「ここを売るしかないのかしら。雄一郎が帰ってきたって、そんな大金用意できないでしょうし」
おばあちゃんがため息をついた。
「ちょっと待ってよ。そんなに簡単に手放していいの?」
逃げ腰のおばあちゃんの言葉に、思わず大きな声を出してしまった。
「いいわけないわ。私はここが大好きだもの。おじいさんが建ててくれて、雄一郎とあなたが育って……」
おばあちゃんが遠い日を思い出し、カフェスペースの窓から外を眺める。
自然に近い雰囲気に植物を植えた、イングリッシュガーデンの向こうに海が見える。六月の今、庭には同系色にまとめられた薔薇が敷地の入口に作られたアーチにも花を咲かせていた。
おじいちゃんをはじめ、家族みんなが愛した景色だ。簡単に手放せるわけはない。
「今あるホテルを改装するだけじゃダメなんですか? じゅうぶん大きいのに」
「改装だけでは顧客を呼び込めません。できればここも更地にし、周辺の土地と合わせて巨大な温泉施設を作りたいと思っています」
社長はタブレットを操作し、新ホテルのイメージイラストを見せてくる。けど、私はそんなものに興味はなかった。