独占欲高めな社長に捕獲されました
私は思わず立ち上がった。キャンバスに近づく。バースデーケーキに立てられているチョコレートには、『みわちゃん たんじょうびおめでとう』と描かれていた。
幸福そうに笑う、リンゴのような赤く丸いほっぺの少女。これは間違いなく、幼い頃の私だ。
お母さんはいなくなってしまったけど、私は祖父母と父親に愛されて育った。少し切ないけれど幸せな毎日だった。
『覚えているわ。私が焼いたのよ、このケーキ。おじいさんが美羽にスケッチブックや画材をプレゼントしたの』
いつの間にか隣にいたおばあちゃんが目を細める。
どこにでもいる、普通の家族の肖像。なのに胸がいっぱいで、目頭が熱くなった。この景色は私が思い描く“幸せ”そのものだ。
『お父さん、これを私にくれない?』
『ああ、いいよ。そもそも美羽に贈ろうと思って描いていたんだ。描きあがったら帰国するつもりだったのに、あんなことになってしまった』
そういえば、下山ギャラリーに行った日にかかってきた電話。あのとき、創作中の絵があると言っていたっけ。それがこれだったんだ。
『そういえば、もうすぐ私誕生日だっけ』