独占欲高めな社長に捕獲されました
「おお……!」
数々のホテルを見てきた私だけど、目の前の建物に、つい感嘆の声を上げてしまった。
港区にある例の会員制ホテルは、実家の近くのさびれたホテルのように、安っぽいヤシの木は植わっていなかった。
高さは三十階くらい、決して高層ホテルとは言えないけど、直線と曲線で絶妙に描かれた幾何学模様が効いている、アールデコ調の建物は、まるでヨーロッパにいるような錯覚を見せる。十九世紀に流行った建築様式だけど、まったく古臭さは感じない。
中に入ると、待望のロビーが現れる。中央に豪華な生花が飾られ、その上には大きなシャンデリアが。
内装もアールデコで統一されており、太い柱が四隅に立っていた。奥に行くとカウンターがあり、品の良さそうな中年の男女が何組か受付をしていた。
「綺麗」
まったく独創性のない感想を口走り、くるくる回りながらきょろきょろと全体を見回してしまう。
アールヌーボーのようにゴテゴテしすぎてはいないけれど、細部にこだわったデザインに釘づけになる。
「おい、田舎者。口を閉じてこちらに来い」
無防備な脇腹を指で刺され、倒れそうになった。社長はソファの並んでいるスペースにさっさと歩いていく。