独占欲高めな社長に捕獲されました
「“あの絵が飾ってあるホテル”と言われたいね。お客様のくつろぎの時間を邪魔せず、それでいて記憶に残るものがいい」
西明寺社長の言葉を聞きながら、私の頭の中にはすでに何枚ものキャンバスが浮かんでいた。
輪郭をぼかした、印象派の柔らかい印象の絵画はどう? ブリューゲルやフェルメールのような、庶民の何気ない日常を切り取った風景もいいかも。アールヌーボーも面白いけど、ちょっとちぐはぐかしら。
周りの幾何学模様と合わせて、具体的な意味を持たない抽象画もいい。そうだ、重ね塗りしてないのに鮮やかな色彩の日本画は? ちょっと冒険しすぎかな。
「……そろそろいいか。お客様の邪魔になる」
黙って何もない壁を凝視していた私の肩を、西明寺社長がポンポンと叩いた。
しまった。仕事用とはいえ、このホテルに場違いな格好でいる女が口を開けて壁を凝視しているなんて。お客様から見たら不気味だったに違いない。
そこから離れる社長についていき、ロビー中央まで戻った。
「どうだ。なんとかなりそうか」
「はい。現場を見られてよかったです。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げた。顔を上げると、社長は珍しいものを見るような目で、私を見ていた。