独占欲高めな社長に捕獲されました
「どうかしましたか?」
「いや……」
彼が視線を逸らしたと思うと、フロントの方からスーツを着た男の人が近づいてきた。
「社長、お待ちしておりました」
男の人の胸には、『支配人 山口』という白い名札が付いていた。黒い髪をオールバックにした、おそらく四十代の支配人は、年下の社長と私に向かい、恭しくお辞儀をした。
「用意は整っております。どうぞ、最上階へ」
西明寺社長を案内しようとする支配人。社長は今夜、ここに泊まる予定なのか。もしや私、彼の連れだと思われている?
「あの社長、本当にありがとうございました。失礼します」
ぺこりと会釈してその場を去る。現場のロビーさえ見られれば他に用はない。早く家に帰って絵画探しだ。
くるりと踵を返すと、がしりと手首をつかまれた。
強い力で引かれ、自然と体が振り向く形に。私の歩みを止めたのは、西明寺社長だった。
「まさか、ここまで来てタダで帰ろうというのではないだろうな、横川美羽」
「は……はい……?」
だってアナタ、車の中で「お前がどんな絵を選ぶか、興味がある」って。ただそれだけだって、言ったじゃない。