独占欲高めな社長に捕獲されました
「ここの雰囲気をよりよく知ってもらうためだ。ロビーを見るだけじゃなくて」
なるほど……。
「感想は?」
ごくりと料理を飲み込み、口元を拭いてから答える。
「素晴らしいです。喧騒とは程遠くて、日常を忘れられますね」
ファミリー向け旅館は子供が走り回っていた。キーキー発情期の猿みたいな高い声を出す迷惑者も、あそこでは咎める人はいない。
しかしここは、落ち着いている。大人しかおらず、それもほとんど中年から高齢者の真のお金持ち。子供会も修学旅行生も、大学生のサークルもいない。
大浴場でも大きな声で話す人は誰もいなかった。大人が日常の疲れを癒し、くつろぐための場所。それがここだ。
「私は子供が苦手です。うるさいのも、嫌いです。だからここは、とても好き」
窓から見る夜景に、ふたたび見惚れる。
普段は嫌いな東京も、今夜は好きになれそうだ。
「それは良かった」
ボルドーのワインを一口のんで目を伏せる社長。その顔は憎らしいくらいに整っていた。
ああ、彼みたいな人が敵じゃなくて恋人だったら素敵だったのに。もちろん、性格は別人のように優しい方が良いけど。