独占欲高めな社長に捕獲されました
「けど社長、一枚の絵を選ぶだけでもやけに慎重なんですね。この件には私だけでなく、複数の社員が関わっている。ご自分で選んでも良さそうなのに」
「あそこはホテルの顔だからな」
グラスを置く社長の指は、思ったより繊細そうな作りをしていた。
「俺だって、色々と考えたさ。しかし、コレクションのどれをかけてもいまいちしっくりしなくてな」
「へえ」
っていうか、絵画コレクションがあるのかい。さすがセレブは違うな。
私だって絵は好きだけど、自宅に飾ってあるのはおじいちゃんの絵だけだ。有名作家の絵はリトグラフでも手が出ない。
「あの旅館で、誰も振り向かない猿の絵をじっと見ていたお前なら、やってくれるかもしれないと思ったんだ」
「あのとき……」
「絵に対する愛情というか、情熱というか、そういうものを感じたんでね」
真っ直ぐに私を見つめる西明寺社長の目は、嘘をついているようには見えなかった。
ただのイジワルな、私を翻弄して喜ぶためだけに出した無茶な条件だと思っていた。
けど、本人が言うように、彼は本気であのロビーに飾る絵を探している。私なら見つけられるかもと、そう思ってくれたんだ。