独占欲高めな社長に捕獲されました
絵画に向かっていると、それを描いた画家の意識やメッセージを感じられるような瞬間がある。もちろんそれは漠然としたもので、言葉にできるようなハッキリとした感覚じゃない。絵の世界の中に潜るとでも言うのだろうか。ひとつひとつの作品を時間をかけて見ることで、いつのまにか無心になれた。
独特の空気の中を進むと、ふと前方にいる二人の観客に視線を取られた。すらりとした長身の男女。男の人は洗練された形のジャケットを着ている。まるで彼の体に合わせて作ったようにぴったりなジャケット。隣の女性は上品なワンピースを着ていた。細い足首に靴のストラップが巻き付いている。
文字通り、絵になるふたり。そのままキャンバスに転写されて、空いている壁にかけられても不思議でないくらい。
「ちぇっ、いいよなぁ」
思わず本音が漏れた。実家の借金を返すために奔走している私より、彼らの方が絶対に幸せだろう。
前に彼氏がいたのって、いつだっけ。大学生の頃だったかな……ふふふ……。
就職しても周囲に心を開かず、週末になると実家に帰って暇なギャラリーのお手伝い。出会いがあるわけもないし、普段はそれを必要とも思わないのだけど、こうした瞬間にふと虚しくなる。