独占欲高めな社長に捕獲されました

 で、どうして待ち合わせ場所が食堂なんだっけ?

 六時近くなった食堂は閑散としていて、誰もいない。照明も消されて薄暗く、不気味に見えるそこで、きょろきょろと辺りを見回した。

「お姉さん」

 厨房にひとり残っていた、三角巾をつけた太めのおばさんがこちらにやってくる。しかも、ちょっと怖い顔をして。

「す、すみません。ちょっと人と待ち合わせをしていて……」

 なぜか謝ってしまった私。おばさんは食事をしそうにない私を見て、きらりと目を光らせた。

「横川美羽さんだね?」

「え、あ、はい……」

 なぜ私の名前を。社員証はとっくに外してカバンの中だし……。

 首を傾げると、おばさんはニッと笑って厨房の方を指す。握った拳から太い親指を立てて。

「こっちにおいで」

「はい? でも私、人を待っていて」

「待ち人ってのは西明寺社長だろ? 私は彼に頼まれてあんたを待っていたのさ」

 どこか芝居がかったセリフ。だけどそれがちょっと面白かったので、おばさんを信用してついていくことに決めた。

 彼女のブラとエプロンが食い込んだ背中を追い、厨房の中へ。奥行きのあるそれを通って、バックヤードへ繋がるドアを開ける。

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