独占欲高めな社長に捕獲されました
4 長い距離を走ったわけでもないのに息が乱れる
三十分後。
車を降りるとき、社長が手を差し出す。無視するのも振り払うのもどうかと思い、自分の手を預けた。
西明寺社長の手は、思っていたよりごつごつしていた。力仕事なんてしたことのない、つるつるでほっそりした手のイメージが覆された。
「逃がさないからな」
車から降りたあとも、社長は私の手を放そうとしない。駐車場から隣のビルへ私を連行するように歩いていく。
「逃げないので、放してください」
お願いするも、社長は聞こえていないような顔で華麗にスルーした。ビルの入口に入り、二階へ。階段を上がってすぐ見えたドアに、【アートギャラリー下山】というプレートがかかっている。
「画廊?」
「俺の行きつけ」
行きつけって、居酒屋じゃないんだから。心の中でツッコむと、彼がやっと手を放した。と同時に重そうな扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
スーツを着た老年の男性が私たちを出迎えた。彼の背後に広がる広々とした空間は、白い壁紙で覆われていた。ほのかに感じる油絵の具の匂いが心地いい。
お互いの邪魔をしない絶妙な位置に、様々な額装を施された絵画がかけられている。照明や絨毯は控えめに主役を引き立てていた。